街の自転車店に、自転車を引いて小学生がやって来た。しかし、一言も発しない。店主がしびれを切らして「どうした」と聞くと、一言「空気」。タイヤに空気を入れてほしいことは百も承知で、店主は言った。「空気ならどこにでも、いっぱいあるよ」
ニュースキャスターの草野仁さんが、1月21日付の日経新聞夕刊で書いていたコラムである。会話ができない子供の急増を嘆く内容だが、今やこんな経験は、だれにでもあるだろう。私もその一人。なかでも印象深いのは約5年前、取材で訪れた大阪府茨木市内の公立中学校での見聞だ。 山間部にあるその中学校は3階建て、7コースのプールもあるが、肝心の生徒が62人しかいない。1学年1クラス、20人前後。ピーク時には3学年で310人が学んでいたという。 職員室に入ってくる生徒たちがやはり会話下手だった。「先生、そろった」「先生、部活」。その一言一言を校長先生自ら、言い直させていた。 「先生、クラス全員そろったのでホームルームに来てください」 「先生、部活が終わったので帰っていいですか」 まるで小学生にでもするような生活指導(言語指導?)の理由を校長はこう説明した。 「生徒が減って教員も減り、子供の社会が小さくなって、相手のことを何でも知っている関係になった。だから会話が単語で済む。しかし、それでは広い社会に出てから、例えば高校に行って困るから、きちんと言い直させているんですよ」 単語会話の子供が増えている理由には諸説ある。草野さんは家庭教育の欠如を挙げていた。確かにそれが大きいだろう。携帯、ネット社会が生んだ、対人関係を面倒がる気風もあろう。しかしそもそもの原因は、子供を取り巻く人間関係の変化、縮小化にあるのではなかろうか。 校長の話はさらにぞっとするものだった。「この子たちは幼稚園から中学校まで10年以上、同じクラスだから、頭の中での関係性が固定しているんですよ。勉強はあの子が一番、走るのはあの子に勝てるはずがないと。そうではない、やればできると向上心を持たせることが大変です」 少子化は社会を縮小させるばかりでなく、その質まで変化させている。「静かな有事」は子供たちの心の中でも進行していることを見逃してはならない。(大阪編集長 安本寿久) 【関連記事】 ・ 子ども手当満額でも55%「不安解消しない」 ・ 政府「子育てビジョン」に目新しさなし ・ 我が子の売り込みに必死 群馬・高崎で親同士のお見合い開催 ・ 足踏みする「男女参画」 働き続ける難しさ ・ 不況でも削れぬ…中学生の塾代最高 年間18万7千円 ・ 雑記帳 雇用対策でアイスづくり 千葉・市原(毎日新聞) ・ 「普天間」緊密に連携を=沖縄知事と初会談−稲嶺名護市長(時事通信) ・ 団体元代表に懲役1年6月求刑=郵便不正事件−大阪地裁(時事通信) ・ 3児死亡飲酒事故、被告と同乗者らを賠償提訴(読売新聞) ・ 滋賀・嘉田知事が出馬表明 「もったいない」生かす社会を(産経新聞)
by 1fajfne93w
| 2010-02-23 01:52
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